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仙台高等裁判所 平成4年(ラ)121号 決定 1993年2月09日

抗告人

山田恵美

右代理人弁護士

森谷滋

主文

原決定を取り消す。

本件免責を許可する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二判断

1  一件記録によれば、抗告人は、債権者協同組合日専連青森会外一七名に対し、合計約四八〇万円の債務を負担し、支払不能の状態にあるとして、平成三年四月二三日、青森地方裁判所に対し破産宣告を求める申立をし、同裁判所において平成三年一一月五日破産宣告及び同時廃止の決定を受けたことが認められる。

2  一件記録によれば、抗告人は、平成二年三月ころには、多額の借入のため自己の収入から返済することは、ほぼ不可能となり、破産宣告の日の一年前である平成二年一一月当時、既に多数の債権者に対して約三〇〇万円にのぼる債務を負担し、一方会社事務員としての収入は手取り月約八万五〇〇〇円しかなく、さしたる資力もなかったから、更に借入れをしても返済できる見込みはなかったこと(ちなみに、抗告人は平成三年三月ころには、毎月の返済額は約二〇万円にも達し、やむなく退社し、雇用保険給付による収入のみとなっている。)、しかるに、(一)抗告人は、平成二年一一月二〇日ディックファイナンスから四〇万円借入れた外以後平成三年二月一四日北奥羽信用金庫から三〇万円の借入れまで、その間、右二社に加え、四社合計約七一万円余りの借入れをしたこと、また(二)抗告人は、平成二年一月一七日、当時失業中で相当多額の借入れをしていたにもかかわらず、一定温度に保温できる風呂釜(購入ローン代金三五万円)を、また同年七月中古自動車(購入ローン代金二七万七七九〇円、これは、抗告人が仕事上に使用しており、必要であったとも考えられる。)を、同年一〇月と同年一一月に指輪各一個(いずれも代金一五万円)をそれぞれ買い入れていることが認められる。

右(一)の事実によれば、抗告人は、破産宣告前一年内に破産原因たる事実があるにかかわらず信用取引により財産を取得したものといえるのであるが、その際、抗告人が破産の原因たる事実がないことを信じせしめるため詐術を用いたかどうかを断定できる資料はない。また、右(二)の事実によれば、抗告人が中古自動車を除く前記各物品を購入したことは、一応破産法三七五条一号の浪費に該当する。そうすると、本件は、破産法三六六条ノ九第二号に該当するかどうかはともかく、少なくとも同条第一号(破産法三七五条)に該当するものと言わざるをえない。

3  進んで、抗告人に対する免責の可否について判断する。

一件記録によれば、抗告人は、高校を卒業した昭和六二年九月から旅行会社に勤務し、手取り八万円の収入を得ていたが、同年一二月債権者協同組合日専連青森会とクレジットカード契約をし、このカードでステレオ(代金二五万円)を購入したのを皮切りに、免許取得費用、洋服等を購入し、さらに銀行カードで融資を受け、返済金の支払や小遣いに費消し、更にその返済のために次々にサラ金業者等から安易に借入れし、特に平成元年一一月から同二年三月まで失業し、雇用保険給付を受けているにすぎず、また同年三月からの事務員としての収入も手取り八万五〇〇〇円程度しかないのに、生活態度を改めることなく、借入れを重ね、ついには支払不能に至ったことが認められる。

しかしながら、一件記録によれば、抗告人が前記(二)の中古自動車を除く各物品を購入したことは、一応破産法三七五条一号の浪費に該当するとはいえ、破産申立後であるが、右購入にかかる各物品をそのまま債権者に対し返送していること、また、前記(一)の借入れについては、破産法三六六条ノ九第二号に該当するかどうか断定し難いのであるが、少なくとも積極的に詐術を用いて借入れしたものとまでは窺えないこと、本件免責の申立に対し、債権者協同組合日専連青森会から異議が申し立てられているものの、その他の債権者らからは異議が申し立てられていないこと、現在抗告人は、これまでの生活態度を反省し、デパートに勤務し、堅実な生活を送っており、更生を誓っていること、原決定後、抗告人の実父において、銀行から一〇〇万円を借入れ、これを債権者らに平等に分配して送付し(債権者の一部には、受領を遠慮した者、あるいは連絡がこないため送付できなかった者がいた。)ていることもまたそれぞれ認められる。

以上のような諸般の事情、とくに破産者が支払不能に至った動機とその経緯、債権者の一人から異議が申し立てられているに止まっていること、抗告人側において、できる限りの債権者に対する債務の弁済に努力したこと、抗告人において今回の破産に至った生活態度を反省し、健全な社会人として生活することを誓うなど更生の見通しが十分期待できることを総合考慮するならば、本件は、免責不許可事由が存在するにかかわらず裁量により免責を認めることが相当である。

三まとめ

よって、本件免責を許可しなかった原決定を取消し、抗告人について免責を許可することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官佐藤邦夫 裁判官小野貞夫 裁判官小島浩)

別紙

抗告の趣旨

一 原決定を取り消す。

二 破産者山田恵美を免責する。

との裁判を求める。

抗告の理由

一 抗告人は、平成四年一〇月一四日、破産法第三六六条の九第一号(第三七五条第一号)、第二号に該当する事由が認められるので、免責を許可しない旨の不許可決定正本を青森地方裁判所より受領した。

二 抗告人は、破産申立後の平成三年一一月二一日、株式会社ライフに対し、風呂の温度を一定に保つ機械一台を、及び同日、株式会社ライフ仙台支店に対し、指輪を、また同日、オリエントコーポレーション青森管理センターに対し、指輪をそれぞれ返還し、右返還した旨の上申書(送付書添付のうえ)は同庁に対し、平成三年一一月二七日付にて提出しました。

三 抗告人の免責の申立の債権者は、協同組合日専連青森会外一七件でありますが、この度、右免責の申立に対し、異議の申立てをしたのは、協同組合日専連青森会一社のみであり、また抗告人は二三才という将来のある女性でもあり、また現在は過去を深く反省し、青森市内のデパートで、真面目に稼働しております。

四 なお、青森地方裁判所において審理された他の破産申立事件(免責の申立を含む)(抗告人代理人が扱った事件)について、抗告人と同様の理由で、破産宣告前の一ケ年以内に借入れし、これが支払不能となり、破産の申立及び免責の申立をしたうえ、いずれも免責が許可された事件もあります(①青地裁平成元年(フ)第六号(平成元年(モ)第三〇三号、②青地裁平成元年(フ)第二八号(平成元年(モ)第五〇七号)、③青地裁平成二年(フ)第一七号(平成二年(モ)第二六〇号)。

なお、右三件の破産申立事件は、本件と類似した事件でありますので、右三件の事件記録を取り寄せのうえ、ご検討いただければ幸いです。

五 右事情をお汲みとりいただき、抗告の趣旨記載の決定をしていただきたく本抗告の申立てに及びました。

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